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宿泊業の経理は「普通の会社と同じ」では回らない
ホテルや旅館を経営していると、日々の売上管理だけでも手間がかかる。客室の宿泊料、レストランの飲食売上、売店の物販、宴会場の利用料と、売上の種類が多い。さらに楽天トラベルやじゃらんなどのOTA(オンライン旅行代理店)経由の予約が増えると、手数料の計算や入金管理が一気に複雑になる。
滋賀県は琵琶湖を中心にした観光地として、おごと温泉、長浜、彦根、近江八幡など各エリアに旅館やホテルが点在している。令和5年の滋賀県観光入込客統計によると、観光入込客数は5,000万人を超え、コロナ禍前の約9割まで回復した(出典:滋賀県観光入込客統計調査)。宿泊者のうちホテル利用が64.2%、旅館利用が16.4%と、宿泊施設への需要は堅調に推移している。
一方で、宿泊業の経理には他業種にない独自の処理が数多くある。OTA手数料の仕訳、宿泊税や入湯税の預り金処理、季節変動に合わせた資金繰り管理など、「普通の会社と同じ経理ソフトの使い方」では対応しきれない部分が多い。
実際に宿泊業のクライアントから「OTA経由の入金と自社予約の売上が混在して、月末に数字が合わない」「入湯税の納付タイミングを見落としていて、自治体から督促が来てしまった」といったご相談をいただくことがある。宿泊業特有の経理処理を知らないまま進めてしまうと、こうした問題が起きやすい。
この記事では、ホテル・旅館の経理で特に間違いやすいポイントを整理し、経理代行を活用するメリットを解説する。
OTA手数料の仕訳|売上と手数料を「総額」で分けて計上する
OTA手数料の基本的な仕組み
OTA(楽天トラベル、じゃらん、Booking.com、一休.comなど)を通じて予約が入ると、宿泊施設はOTAに対して予約手数料を支払う。手数料率はOTAごとに異なり、一般的に宿泊料金の8%〜15%程度になる。
ここで経理上の問題が生じる。OTA経由の入金は、多くの場合「宿泊料金から手数料を差し引いた金額」で振り込まれる。たとえば1泊10,000円の部屋がOTA手数料率10%で予約された場合、実際に振り込まれるのは9,000円だ。この9,000円をそのまま売上として計上してしまうと、本来の売上高が過少になる。
正しい仕訳の方法
正しくは「総額主義」で処理する。売上は宿泊料金の総額(10,000円)で計上し、OTA手数料(1,000円)は「支払手数料」として別に経費計上する。
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 売掛金(OTA名) | 10,000円 | |
| 売上高(宿泊) | 10,000円 | |
| 支払手数料 | 1,000円 | |
| 売掛金(OTA名) | 1,000円 | |
| 普通預金 | 9,000円 | |
| 売掛金(OTA名) | 9,000円 |
こうすることで、売上の全体像とOTA手数料の負担額が正確に把握できる。OTAごとに手数料率が異なるため、「どのOTA経由の予約が利益率が高いか」を比較分析する際にも、この処理が前提になる。
複数OTAの管理が煩雑になる理由
宿泊施設が3〜4つのOTAに登録している場合、OTAごとに入金日・手数料率・精算サイクルが異なる。楽天トラベルは月2回精算、じゃらんは月1回精算など、入金タイミングがバラバラになりやすい。売掛金の残高をOTA別に管理し、入金時に正確に消込みする作業は、件数が多いほど負担が大きくなる。
自社予約(公式サイトやGoogle直接予約など)の売上と混在すると、どの売上がどこからの予約か追えなくなるケースもある。宿泊管理システム(PMS)の売上データと会計ソフトの数字が一致しないまま月が進んでしまう、という事態は珍しくない。
宿泊税の経理処理|預り金として管理し、納付時に相殺する
宿泊税とは
宿泊税は、自治体の条例に基づいて宿泊者から徴収する法定外目的税(地方税)だ。2026年4月現在、東京都、大阪府、京都市、福岡県、金沢市、長崎市などが導入しており、今後も導入を検討する自治体が増えている。滋賀県でも宿泊税の導入検討が進められている。
宿泊税は宿泊施設が「特別徴収義務者」として宿泊者から徴収し、自治体に納付する仕組みになっている。宿泊施設にとっては「自分の売上」ではなく、「宿泊者から預かって自治体に渡すお金」だ。
仕訳のポイント
宿泊税は預り金(または仮受金)で処理する。消費税の課税対象外(不課税取引)である点も重要だ。
宿泊者からの受領時:
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 現金 / 売掛金 | 200円 | |
| 預り金(宿泊税) | 200円 |
自治体への納付時:
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 預り金(宿泊税) | 200円 | |
| 普通預金 | 200円 |
宿泊税の税額は自治体によって異なる。東京都は2026年4月現在、1泊10,000円以上15,000円未満で100円、15,000円以上で200円(なお、東京都は課税免除基準や税率の見直しを検討中で、早ければ2027年度以降に改正される可能性がある)。大阪府は1泊7,000円以上で段階的に課税される。導入されている地域の施設は、宿泊料金の価格帯ごとに税額を正しく算出し、請求書や領収書に明記する必要がある。
入湯税の処理|温泉を使う施設は必ず発生する
入湯税の仕組み
入湯税は、鉱泉浴場(温泉施設)の入湯客に課される目的税で、市町村が徴収する。標準税率は1人1日あたり150円だが、自治体の条例によって異なる場合がある(地方税法第701条の2)。
滋賀県ではおごと温泉(大津市)、長浜太閤温泉、尾上温泉などの温泉旅館が入湯税の対象になる。温泉を引いているホテルも同様だ。
入湯税も宿泊税と同じく、宿泊施設が特別徴収義務者として利用客から徴収し、市町村に納付する。経理処理の流れは宿泊税と同じで、預り金として受け入れ、納付時に相殺する。
宿泊税と入湯税が同時に発生するケース
温泉旅館の場合、宿泊税と入湯税が両方発生することがある。それぞれ別の預り金勘定で管理し、混同しないようにする必要がある。納付先も異なる(宿泊税は都道府県または市、入湯税は市町村)ため、納付期限の管理も別々に行う。
請求書や領収書の記載方法にも注意が必要だ。宿泊料金・サービス料・宿泊税・入湯税を明確に区分して記載しないと、消費税の計算を誤るリスクがある。宿泊税と入湯税は不課税取引だが、宿泊料金やサービス料には消費税がかかる。この区分が不明確な請求書を出してしまうと、宿泊者側の経理処理にも影響が出る。
季節変動と資金繰り|繁忙期の売上で閑散期を乗り切る管理法
宿泊業は売上の季節変動が大きい業種だ。ゴールデンウィーク、夏休み、年末年始、紅葉シーズンは稼働率が高くなる一方、1月下旬〜2月、梅雨時期は落ち込みやすい。滋賀県の場合、琵琶湖の花火大会(8月)や紅葉シーズン(11月)は宿泊需要が集中するが、冬季はスキー場のある奥びわ湖エリアを除くと閑散期になりやすい。
よくあるご相談として「繁忙期の売上を運転資金として使い込んでしまい、閑散期に消費税や固定資産税の納付資金が足りなくなった」というケースがある。繁忙期に利益が出ている間に納税資金を別口座に確保しておくなど、先を見据えた資金管理が欠かせない。
経理の観点で重要なのは、月次の資金繰り表を作成し、繁忙期の利益を閑散期の固定費(人件費・光熱費・リース料・借入返済など)に充てる計画を立てることだ。特に以下の支出は時期が決まっているため、事前に資金を確保しておく必要がある。
- 固定資産税:年4回(4月・7月・12月・2月)
- 消費税の中間申告:年1回〜11回(前年の消費税額に応じて回数が変わる)
- 法人税の中間申告:事業年度開始から6か月後
- 入湯税・宿泊税の納付:自治体の定める期日(月次が多い)
- 源泉所得税の納付:毎月(納期の特例を受けていれば年2回)
これらの支出予定を月次の資金繰り表に落とし込み、「何月にいくら必要か」を可視化しておくと、閑散期の資金ショートを防ぎやすくなる。
宿泊業の経理を外部に任せるメリット
日々の記帳と売掛金管理に追われなくなる
宿泊業の経営者や支配人は、接客・集客・施設管理・スタッフ管理など多くの業務を抱えている。OTAの売掛金消込み、宿泊税の預り金管理、請求書の発行といった日常的な経理作業を外部の経理代行に任せることで、本業に集中できる時間が生まれる。
経理代行では、PMSやOTAの管理画面から売上データを取り込み、会計ソフトへの入力・仕訳・残高確認までを代行する。月次の試算表を早期に作成することで、経営判断に必要な数字がタイムリーに手に入る。
税金の計算ミスや納付遅れを防げる
宿泊税・入湯税・消費税・源泉所得税と、宿泊業は納付すべき税金の種類が多い。それぞれ計算方法・納付先・納付期限が異なるため、自社の経理担当者だけで漏れなく管理するのは負担が大きい。経理代行と税理士が連携して対応することで、計算ミスや納付遅れのリスクを減らせる。
宿泊業の経理代行では、OTAごとの入金サイクルと手数料率の違いを正確に把握した上で売掛金管理を行うこと、宿泊税・入湯税の預り金残高を月次で照合することを特に重視している。こうした業種固有のチェックポイントを押さえることで、計上ミスや納付漏れを未然に防いでいる。
滋賀県内で宿泊業を営む方で、経理業務の負担を感じている場合は、業種特有の処理に対応できる経理代行サービスの活用を検討してみてほしい。
宿泊業の経理に限らず、経理代行サービスを利用する前に準備しておくべきことは「経理代行サービス導入前に準備すべき5つのこと」の記事で詳しく解説している。また、季節変動の大きい業種の資金繰り管理については「融資審査で評価される試算表の作り方」も参考になるだろう。